Show 第99回薬剤師国家試験 2020年4月11日 第99回薬剤師国家試験 問343 治療薬物モニタリング(TDM)に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。 1
タクロリムスは、血清試料を用いて測定する。 解答・解説 解答 解説
-第99回薬剤師国家試験 TDMの基礎知識
TDMの基礎知識TDMとは治療効果や副作用に関する様々な因子をモニタリングしながらそれぞれの患者に個別化した薬物投与を行うことです。多くの場合、血中濃度が測定され、臨床所見と対比しながら投与計画が立てられます。薬物を投与する際には期待する効果とそうでない効果(副作用)が現れますが、それらが薬物の血中濃度と相関する場合に血中濃度を指標として投与法を決定するわけです。TDMが行われる薬物には一般的な指標として有効血中濃度が知られています。 例えば抗MRSA薬である塩酸バンコマイシンではMRSAのMICが考慮され、最低血中濃度が5μg/mL以上であることが必要ですが、最低血中濃度が15~20μg/mL以上になると腎機能障害などの副作用が生じやすくなるため、一般的には5~15μg/mLが有効血中濃度とされています。しかし個々の患者における薬物への反応性が異なるため、治療評価項目である細菌培養や発熱、炎症所見、また、副作用の評価項目である腎機能などを観察しながら投与を行います。薬物投与の際に治療目標の指標となる観察項目をモニタリングパラメータと呼んでいます。PK-PDパラメータやバイオマーカーもTDMのモニタリングパラメータとして利用されるようになり、治療の個別化はより最適化されるようになりました。 (木村利美)
PK-PDパラメータとバイオマーカー ここでPK-PDパラメータやバイオマーカーについて解説しておきます。 バイオマーカーは古くからある言葉ですが、ある意味その捕らえ方は様々です。FDAのFrameworkはバイオマーカーの位置づけをクリニカルエンドポイント等も含めて以下のように定義づけています。 A characteristic that is objectivelymeasured and evaluated as an indicator of normal biologic processes, pathogenic processes, or pharmacologic responses to a therapeutic intervention. Clinical Endpoint Definition; A characteristic or variable that reflects how a patientfeels, functions or survives (Note that, except for survival, all these involve some sort of intermediary measurement). A biomarker intended to substitute for a clinical endpoint. A surrogate endpoint is expected to predict clinical benefit (or harm, or lack of benefit) based on epidemiologic, therapeutic, pathophysiologic or other scientific evidence.例えばクリニカルエンドポイントが脳卒中の発生であった場合に、サロゲートエンドポイントとして測定される血圧は因果関係から推測されるものであって、必ずしもクリニカルエンドポイントの指標として客観的ではなく、臨床的なアウトカムに完全に相関しない場合があります。これらは言葉の定義に関する概念であり、同じ測定指標であっても、捉え方の違いによって指標の位置づけが異なってきます。 臨床分野におけるバイオマーカーの具体的な例として心電図、PETの画像、血清化学物質、血液中の自己抗原、骨密度測定、肺機能試験、新生児のアプガースコアなどがあげられ、診断、病期分類、病態指標、介入による臨床反応のモニターや予測など に使用されています。 近年、ゲノム解析やプロテオーム解析が進んできたことによって、DNAやRNA、生体蛋白等に関連したさまざまなバイオマーカーが見出され、遺伝子診断等に基づいた治療の個別化にも利用されています。CYP2C9や2C19、2D6などの薬物代謝酵素の遺伝子 多型はTDM領域でも利用されるバイオマーカーの一つです。抗てんかん薬のフェニトインは非線形性を来たす薬物で一定濃度を超えると急激に血中濃度が上昇しますが、本剤はCYP2C9や2C19の変異株により血中濃度上昇が見られるため特に注意が必要で す。グルクロン酸抱合に関与するUGT1A1などは、抗がん剤の副作用を予測するためにSNPs(一塩基変異多型)解析のキットとして製品化されています。重篤な下痢を起こし死亡例も報告されているカンプトテシンなどに使用されます。 従来の血中濃度モニタリングに加え、PK-PDパラメータや分子レベルでのバイオマーカーを取り入れることで、TDMはより治療の個別化が図れるようになりました。 (木村利美) コンパニオン診断薬コンパニオン診断薬とは、医薬品の臨床使用に際して用いられる体外診断薬で、医薬品のベネフィットが最も期待される患者を特定するもの、医薬品の重篤な有害事象のリスクが大きい患者を特定するもの、あるいは治療法最適化(治療スケジュール、用量、投与中止等)のために反応性をモニターするもの、などと定義1),2)されていて、新規の検査であれば、医薬品と対になって開発・承認される必要があります。ファーマコジェネティクス/ファーマコゲノミクス(PGx)とともに、個別化医療の一端を担うものとして注目されています。3),4)たとえば、クリゾチニブとALK融合遺伝子検出キットやモガムリズマブとCCR4キットなどがあります。 [参考資料]
採血の留意点薬物血中濃度を測定する際の採血は通常静脈採血です。点滴静注を行っている場合には、薬物が投与されているルート側と異なる体幹躯から採血を行います。点滴ルートからの採血はなるべく避け、採血が困難でルートからの血液採取を行う場合には、点滴ルート内に薬物の残留が無いように注意します。 採血管には血漿分離剤を使用しているものがありますが、分離剤に吸着される薬物もあるため、分離は速やかに行います。測定まで時間がかかる場合には冷所に保管し、当日測定できない場合には凍結保存とします。ほとんどの薬物は血清あるいは血漿濃度を用いて測定しますが、シクロスポリンは赤血球への薬物分布が多いため全血を用います。 採血時間のタイミングも重要なポイントです。効果を維持するためには一定の濃度を維持する必要があり、また濃度が上がり過ぎて副作用が起きないように、効果と副作用の確認のためにトラフ値(谷値とも呼ばれる投与直前値)を採血します。また、テオフィリンなど薬によってはピーク値に依存して副作用の起こるものがあり、副作用を確認する場合にピーク値を採血する薬がいくつか知られています。つまり個々の薬によって効果あるいは副作用・中毒の確認など、目的にあった採血時間が必要となります。但し、フェノバルビタールのように半減期が長く、一日の血中濃度の振れ幅が小さい場合にはどのタイミングで採血を行っても問題はありません。これらの概念に相当しないのがアミノ配糖体系の抗菌薬(ピーク値とトラフ値の2点採血)とメトトレキサート(24, 48, 72時間の経時採血)です。急を要しない場合は定常状態(半減期の3~4倍以上の時間)で採血を行います。 (木村利美) 薬物血中濃度が有用な場合薬物血中濃度が治療効果と副作用と密接に関連するとき、薬物血中濃度は投与設計の指標となる。 以下のような場合に、TDMは有用である。
(篠崎公一) TDMと薬物動態 望ましい血中濃度が明らかなとき、血中濃度が高ければ投与量を減らし、低ければ投与量を増やすなどの試行錯誤の投与法の検討は、至適投与法を見いだすまでに時間がかかり、しかも効果が得られずに患者の病状が悪化したり、患者を副作用の危険にさらすこともあるため良い方法とはいえない。患者の薬物動態を推定し目標血中濃度となる投与法を決定することは有効かつ安全で効率的な方法である。 (篠崎公一) 分布容積 Vd と負荷投与量 ある薬物を急速静脈または経口で投与する場合を考える。但し、経口投与の場合、薬物の吸収速度は極めて速く、経口投与後の血中濃度推移が急速静脈投与後の血中濃度推移に近似できるものとする。 Dの投与によって増加する濃度ΔCpは式1で表される。そして、VdはDとΔCpから式2を用いて計算できる。 たとえば、水溶性が高い抗生物質のゲンタマイシンのVdは細胞外液までの水分量に相当する体重の25%程度の10~20Lである。一方、脂溶性が高いジゴキシンのVdは200L~400L程度であるが、これは実際に存在する水分量を表していない。すなわち、ジゴキシンが心筋および骨格筋に高濃度に分布することによって血液中のジゴキシン濃度が薄くなったことを示している。Vdは、Dを投与して、ΔCpとなったときの仮想の希釈容積である。式1をDについて整理し、ΔCpの代わりに目標濃度Cp targetを用いることによって、速やかに目標血中濃度に到達させるための投与量(負荷投与量、Loading Dose)を計算することができる。 つまり、Vdを用いれば、最初にどれぐらいの量を投与すれば良いかが検討できる。(篠崎公一) クリアランス CL と維持投与量薬物量Dを投与してΔCpの濃度が増加したあと、もし追加投与を行わなければ、薬物は腎臓、肝臓などから排泄され体外に除去されるため、薬物血中濃度は時間経過とともに低下する。CL(通常単位はL/hr)は薬物の除去能力であり、薬物で汚染されたVdが単位時間あたりどれくらい浄化されるかを表す(図3)。 Vdを時間あたり何L浄化できるか;除去能力=CL 負荷投与を行わずに静脈内に一定速度で薬物を注入するとき、注入速度をR(mg/hr)※とすると、濃度はしだいに上昇し、注入開始からt'時間後には、さらに時間が経過し、t’が半減期の5倍以上になると、投与速度Rと除去能力CLがほぼ釣り合って薬物血中濃度は一定となる(図4)。この状態を、定常状態(steady state)という。 ※ ただし、 CLはRとCpssから計算できる。 定常状態の目標濃度Cpss target維持するために必要な投与量(維持投与量、Maintenance Dose;単位mg/hr)は、式5を変形して求めることができる。 つまり、CLがわかれば最初の投与のあとに1時間あたりどれぐらい量を投与すれば良いかわかる。 負荷投与量は目標濃度にVdを掛けて求め、維持投与量は目標濃度にCLを掛けて求める。 (篠崎公一) 消失速度定数(Ke)、半減期(t1/2)と投与間隔決定半減期(t1/2)による投与間隔決定 CLとVdの比は消失速度Keである。 生物学的半減期(以下、半減期と呼ぶ。略語t1/2)は、次式により求める。
生物学的半減期を用いて投与間隔を決定する薬物としてアミノグリコシド系抗生物質がある。たとえば、ゲンタマイシンは、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に有効なアミノグリコシド系抗生物質であるが、ピーク濃度を最小発育阻止濃度(MIC)の10倍以上とし、トラフ濃度をできるだけ低くすることによって、治療効果がより確実に得られ、かつ聴器障害および腎障害などの副作用を避けることができる。 (篠崎公一) 特定薬剤治療管理料(TDMの診療報酬)
昭和55年に躁うつ病治療剤である炭酸リチウム、次いで翌56年に抗てんかん剤とジギタリス製剤について、血中濃度をモニタリングし治療に役立てること、すなわちTDMが保険点数化された。以降、TDMの治療面での有用性が確認されるとともに、対象薬剤も漸次拡大され、点数も引き上げられてきた。医療費抑制が国の最重要課題となり、低減化・包括化が推進されている中にあって、このTDMに関する「特定薬剤治療管理料」が拡充されていることの意義は大きく、真摯に受け止めなければならない。
* 平成20年4月収載 (北海道TDM研究会 (日本TDM学会広報委員会 TDMと精度管理 近年の臨床検査技術の進歩で、さまざまな測定技術や測定法が出現している。そして、その測定法は血中薬物濃度測定分野にも及んで、汎用機器であらゆる分野の項目測定が可能になってきた。 外部精度管理
内部精度管理(日常のQC)
精度管理の目的は、ばらつきや正確度のずれの原因をつきとめ、それを改善することである。そのためには、問題点を効率良く把握できるような体制、そして、所定の精度が得られるような環境作りが必要である。 (北海道TDM研究会 薬物血中濃度測定法血中濃度測定に広く用いられている免疫学的測定法の市販キットは、簡便・迅速かつ効率的に測定できる方法である。しかし、TDM対象の抗不整脈薬のうち、約半数の薬の血中濃度測定は、市販キットがないため、HPLCなどの分離分析法によって行う必要がある。一方、測定装置をもたない医療機関でも民間の検査センターを利用して血中濃度測定を行うことが可能である。検査センターによる測定では結果が得られるまでの時間の短縮が課題であったが、翌日の昼頃までに結果を FAX で報告するサービスを提供している検査センターもあり、投与法の変更に利用できる迅速性が得られる。
(篠崎公一) 治療薬物モニタリング(TDM)が必要とされる代表的な抗生物質はどれか。?TDM が必要な抗菌薬:ゲンタマイシンやアルベカ シンなどのアミノグリコシド系薬とバンコマイシンや テイコプラニンなどのグリコペプチド系薬。 薬物投与後、適切な時間に採血を行い 薬剤部あるいは検査部で薬物血中濃度 を測定。
治療薬物モニタリング(TDM)の対象薬物はどれか?2 正テイコプラニンは、腎消失型薬物であり、患者のクレアチニンクリアランスに基づいて投与設計が行われる治療薬物モニタリング(TDM)対象薬である。
血液中の赤血球画分に多く分布するため、血中薬物濃度を測定する際に測定サンプルとして全血を使用する薬物はどれか。1つ選びなさい。?しかし、タクロリムスやシクロスポリンは赤血球中へ多く分布するため、血漿中濃度もしくは血清中濃度だけでなく血球を含めた全血中濃度を測定する。
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